2019年10月26日(土) 松井宏樹 写真展 DOTO@gallery0369(津市美里町三郷) (車、徒歩)
gallery0369(津市美里町三郷)では、次の写真展が開催されている。
2019 Project Photo Exhibition 松井宏樹 写真展 DOTO
期間: 2019年10月23日(水)〜 10月31日(木)
【詳細は】 2019 Project Photo Exhibition 松井宏樹 写真展 DOTO | gallery0369
【参考】 松井宏樹さんのホームページ
いつものように古民家Hibicoreに隣接する gallery0369を目指した。
そして、いつものようにこちらの案内に従って坂道を下ると
gallery0369へ。
微妙な緊張感のなか、重厚な雰囲気の扉を開くと
次の案内板が私を迎えてくれた。
松井宏樹さんが在廊されているとのことだったので訪れたが、残念ながら不在となっていた。
本写真展のタイトルは、先のDMにも記されているように DOTO である。私はこのタイトルがとても気になっていた。それは前回の写真展のタイトルが”HOMI”であったことと関係する。
【参考】
- 千賀英俊写真展“HOMI”@gallery0369(津市美里町三郷) 2019年10月13日
“HOMI”にて展示されていた写真たちは、愛知県豊田市保見ヶ丘にある保見団地に住み近辺の自動車関連企業で働く外国人(特に南米出身)とその生活を対象としたものだった。また HOMI は HOME に通じ、さらに HOMIE にも通じるのだろう。だから、日本語よりもローマ字を選択したのだと勝手に理解して(できて)いた。
しかし、今回の写真展のタイトルである DOTO はなぜにローマ字なのか? DMを拝見してもその意図については想像できなかった。そこにはモノクロで撮る意味が隠されているのだろうか? 今回、訪れた目的は写真自体を体感したい思いが半分とローマ字タイトルの理由を知りたい思いが半分だった。
作者不在なので、展示されている作品たちからローマ字タイトルの理由を探ろうと写真に目を向けたのだったが・・・
最初の作品を目の当たりにするなり思わず作品に近づいてしまった。
さらに、眼鏡を額へとずり上げていた。(老眼の方ならわかるはず)
小さなサイズの作品に引き寄せられた私は、ダークな雰囲気の中央で羽ばたく水鳥を見つけた。しばらく魅入ってから次の作品へ。次の作品には馬が、さらに次は鹿、その後も・・・。風景が主役となっているのだが、そのなかに探さないとわからないほどの小さな超主役が隠されるように撮り込まれているのだ。さらに注視すると脇役まで見つかる。
ここには作品を体感しながら次から次へと動物を探している自分がいた。そして「写真展のテーマはなぜにローマ字なのか?」っなんて愚問は、すでの頭の隅からも消え去っていた。動物探しにハマった私は、目立つ超主役が灯台以外には存在しない作品でも動物を探していた。(見つかるはずはないのに。見つかれば松井マジックの幻想だろう。実は灯台が写されたその作品で、私は羊の群れを見ていたのだった。「幻想」)
主役となる風景に目立たない超主役が隠された独特なスタイル、面白い、惹き込まれていた。
そして作品展示の最後には、次のテキストが掲示されていた。
DOTO
道東と呼ばれる北海道東部には、かつて暮らしていた海辺の町がある。
暮らし離れてからも度々訪れていたその町に、僕はもう一度暮らすことを決めた。
通過者ではなくそこに暮らすものとして、憧れた土地の光と影に、カメラと触れてみたかったのだ。
(冊子 DOTO1 あとがきより)本展では、2016年2月より北海道網走市へ移住し、北海道東部の呼称である道東=DOTOのタイトルで撮影、発表している写真の中からセレクトしたものを展示しています。
道東の大きな季節の中に見られる都会とは違った豊かさの中で、動植物の息遣いや人の営みを感じながら、人と自然の境目をなぞるように見つめていきたいと日々思っています。また、道東は18歳から4年間過ごし、写真を撮り始めるきっかけとなった場所でもあります。
生まれた場所ではありませんが、縁あって繋がりを持った愛すべき場所で、そこに暮らす者として写真を記録できることは大きな喜びであり、原点だと思っています。松井宏樹
なお、2016年から撮り始めたDOTOの作品はホームページでも紹介されているように冊子DOTO 1〜6にまとめられている。(しかし、1〜4は在庫なし) これらの冊子がギャラリーの中央に並べられていたので、すべての写真を注視していた。
すると突然にギャラリーの扉が開き、ギャラリーのオーナーである松原豊さんと作家である松井宏樹さんが戻って来たのだった。
幻想から現実へと引き戻された私は、挨拶もそこそこに目的の半分を思い出し、松井さんに「なぜにテーマがローマ字なんですか?」と質問していた。
すると松井さんから次の言葉が返された。
日本語は言葉自体に意味があるので作品はクリアな状態で観てほしい。さらに外国人への対応も考慮してローマ字にした。
テキストによる写真への先入観を避ける。そのことは写真展のテーマだけでなく各作品にも現れていた。作品にはタイトルもキャプションも添えられていなかった。(ただし、さきほど注視していた冊子 DOTO 1〜6には冊子の末部に撮影年、撮影地等が記されている。)
また、「そこに暮らす者として写真を記録できることは大きな喜び」として記録するのなら、モノクロではなくカラーの方がいいのではないか? との疑問を投げかけたところ、松井さんからは次のようなニュアンスでの回答があった。
10年ほど東京で生活してから北海道網走市へ移住した自分にはモノクロの方がしっくりする。カラーは情報量は多いがモノクロしか表現できないものがある。
このことは、松井さんがテキストに書いている「通過者ではなくそこに暮らすものとして、憧れた土地の光と影に、カメラと触れてみたかったのだ。」の【光と影】で言い尽くされていたのだった。
最後に、小さな作品と小さな超主体について尋ねたところ、松井さんからは次の通り。
作品のサイズは覗き込むように観て欲しいから。
動物等の大きさについてはこの距離感がしっくりするから。
生活者であり、記録者である松井さんの思いと人柄がここに現れているのだろう。
DMに使用されていた作品が会場の片隅にひとりぼっちだったのは印象的だった。