2019年10月27日(日) 第一部 ふすまの解体ショー:河崎ふすま解体団による「ふすまの解体ショー&そこから出た古文書によるミステリーまち歩き」 (徒歩)
第20回 伊勢だいどこ 河崎商人市では、よもやま劇場や伊勢春慶塗り体験、一箱古本市など多数の興味深いイベントが行われた。
今回、私がもっと注目したのは 「ふすまの解体ショー&そこから出た古文書によるミステリーまち歩き」 であった。これは、伊勢市河崎の古本屋「ぼらん」さんが団長となり 河崎ふすま解体団 を組織した初めてのイベントだ。
午前中には「河崎・川の駅」の前で「襖の解体ショー」を実施し、午後には解体で見つかった古文書を頼りに河崎の町をめぐる「ミステリーまち歩き」。見つかった古文書の内容によっては企画倒れとなってしまう危なっかしい企画だ。
なぜにこのようなイベントが企画されたのだろうか?
最近は河崎やその周辺でも建物が解体された更地をよく見かけるようになった。まるで解体ドミノが展開されているような状況にある。古民家や銭湯など歴史のある建物が突然に姿を消し、その存在やそこで生活していた人々の歴史がまるで無かったかのように・・・。 私が体感した事例は次の通りである。
【参考】 ※このリンク内にいくつかの事例あり
- 伊勢市駅から外宮へと続く北御門通りでも更地に 2019年10月27日
建物は老朽化するためそれらを維持するには経済的にも負担が大きく、行政等の支援でもなければ永続的に維持することは難しいだろう。しかし、そこで生活した人々の営みは建物とともにさまざまなものに残されている。生活用具や衣類、古文書などのように直接的に残されるもの、さらには古い襖や屏風の下張りとして使用された反故紙(不要となった和紙や文書)など。これらの下張りはその当時には不要なものであっても、今となっては歴史の生き証人となり得るのである。
襖などを学術的に解体して下張り文書をまとめようとすると測定や記録などさまざまに注意すべきことが多い。ただし、今回のイベントでは「誰もが緊急的に手軽に歴史資料である下張り文書をレスキューする(できる)」ことを目的に実施された。
建物とともに建具等がまとめて解体されてしまえば、建物とともにそれらの歴史には終止符が打たれてしまう。襖などから容易に下張り文書を手に入れられれば歴史的に貴重な情報が得られ、それらの情報が横断的にかつ重層的に集められることによって、点から線へ、線から面へ、面から層へと広がりと厚みを持った歴史を知ることができる。
本イベントは、歴史ある町を主張する伊勢の地でありながら歴史的な建造物や史料などがなおざりにされる現状に対し、市民の自主的な取り組みで「歴史ある町の本来の姿」を取り戻したいとの思いが込められている。
捨てられる運命にあった一枚の襖から取り出された古文書、これをもとにアドリブ的にミステリー・ツアーを実施する。下手をすれば「ごめんなさい」解散となってしまうかも知れない危なっかしい企画であるが、そこには「歴史ある町の本来の姿」を切望する熱い思いがあるのだった。取り戻せるのは否かはすべてが市民ひとりひとりの手に委ねられているのだ。(私も含めて)
そんな気づきを与えてくれるのが 「ふすまの解体ショー&そこから出た古文書によるミステリーまち歩き」だった。
ここでは午前に実施された「ふすまの解体ショー」について紹介し、午後に実施された「ミステリーまち歩き」については別の記事で紹介する。
【ふすまの解体ショー】
講師は「伊勢の歴史」の生き字引である千枝大志(同朋大学仏教文化研究所所員)さん。またそのサポート役として千枝さんの知人であり、古文書やそのアーカイブに関して専門的な知識と技能を有する髙橋浩明さん。お二人はこのイベントのために名古屋から駆けつけてくれたのだった。
また、本イベントは「誰でもが簡単に襖を解体できる」ことを証明するために、参加自由であった。
「ぽらん」さんの挨拶の後、千枝さんにより今回の趣旨と概要が説明された。
学術的に記録を取りながら進めるのであれば詳細な手順を踏む必要があるが、今回は下張り文書のレスキューであり緊急的な荒っぽい対応であることを。
なお、学術的な手順については解体の途中で紹介された次の論文が参考になる。
【参考】
こちらが解体の対象となった襖。しかしどこで入手されたのかについてはこの段階では明かされなかった。午後のミステリーまち歩きの最後点でのお楽しみだった。エンディングまでがミステリーだった。
参加者にはマスクとビニール手袋が配られた。虫食いやカビ、消毒用エタノールなど人体への影響を配慮した最低限の予防である。
まずは下張り(和紙)の上に貼られている襖紙(洋紙)の状態を確認してから
取っ手が外された。正式には内側の上下に打たれた釘を丁寧に抜くのだが、今回は緊急的にマイナスドライバで周囲をこじ上げ、さらにはスプーンを差し込むとテコの原理で取り外された。(スプーンの意外な使い途だ)
続いては表面に貼られた襖紙をはがす。2枚ほどが重ねて貼られていた。
襖紙の下から現れた和紙の表面に消毒用エタノールをスプレーする。
和紙を喰った虫を退治しカビなどの悪影響を予防するため。表面が湿って色が変わる程度にシュッ・シュッ・シュッ。虫の駆除には布団圧縮袋に入れて空気を抜く(酸素を断つ)方法などもあるそうだ。
このような下準備を終えると
続いては縁を取り外す。縁も保存する場合は上下(短辺)の縁を外してから左右(長辺)の縁をスライドさせ(方法を先に紹介したPDFに示されている)るべきだが、
今回は下張り文書のレスキューであるため力技で縁を取り外した。
先に紹介した学術的な解体の手順を示す論文については、この場面で紹介された。
ここには補強のために洋紙が貼られていた。洋紙をはがすのは和紙に比べて厄介であるそうだ。
下張り文字をはがす準備が完了。虫食いのある側からはがし始めた方がはがし易いとのこと。まずは講師の千枝さんがはがし始めた。
はがすきっかけが作られると髙橋さんや一般の参加者も作業員に加わった。はがれ難い場合はスプレーで水を吹きかけて濡らし様子を見みながらはがす。
しばらくすると一般参加者だけでの作業が進んだ。
和紙は予想以上に水に強い。
なお、解体ショーを実施するにあたり河崎ふすま解体団が用意した道具は多岐にわたる。
その一覧はこちら。
襖の解体ショーの準備品一覧
マスク
ゴム手袋(薄手)
ビニールシート
消毒用エタノール金槌
ノコギリ
ペンチまたは釘抜き
スプーンスプレーボトル(霧吹き)
はけ
竹べら(へら)
竹串
ピンセットジアスターゼ(強力に貼り付いたのりを溶かすため)
パレットアイロン(湿らしたタオルの上から熱をあたえるため)
延長コード
雑巾・タオル
バケツ新聞紙
ペーパータオル
ビニール袋(古文書用、ゴミ用)ヤマト糊またはフエキ糊
ハサミ
カッターナイフ
メジャー
筆記具
マジック
デジカメ(記録のため)
鏡(裏返しで貼られた文書の文字を読むため)
これらは、アイロンを除けば百均やホームセンターなどで容易かつ安価に調達できる。
解体を始めてから30分足らずだろう、片面の下張りがはがされた。
会場が階段状だったので、
それぞれの段に新聞紙を広げるとはがされた古文書を一枚ずつ並べた。新聞の吸水力と太陽の熱と微風で水分を抜くのだ。
学術的には、その位置や重なり具合なども記録しながら一枚一枚を丁寧にはがすのだが
今回はこのようにまとめではがしたので
新聞紙に広げてから一枚一枚をはがす作業が続いた。(階段状の足場で腰が痛くなる。)
そんな厳しい環境でも興味の方が勝っていたのだろう。はがし作業は着実に進められた。
襖の解体はさらに進み、裏面へと。
こんな一枚ものには魅入ってしまうことも。
なお、頑固な貼り付きは水スプレーだけでは対応できないため、そんな場合の対処方法について髙橋さんから紹介があった。
そのひとつは化学的に対抗する方法で、大根に含まれているジアスターゼである。のりの成分を溶解させる機能があり、大根おろしでも代用できるそうだ。
スプーン一杯のジアスターゼを500mlの水に溶かすがなかなか溶けないため上澄みを使う。一晩ねかせると効果が大きいそうだ。
また、アイロンを使用した方法も紹介された。貼り重なった下張りの上に濡れタオルを置き、その上からアイロンで熱を加える。熱すぎると文書が黒くなるためその点には注意が必要だ。
ふすまの解体ショーが進むなか多数の見学者が行き交ったが、ここには古文書に魅入っていた若い女性たちが。三重大学の学生とのことだった。
解体を始めてから一時間半以上が過ぎた頃、襖の両面からすべての下張りがはがし
尽くされた。
以上で襖の解体ショーは終了となった。一枚の襖を解体して古文書をレスキューするのに約2時間を要した。学術的に記録を取りながら進めると一日がかりになることもあるそうだ。
このように荒っぽく扱っても和紙はかなり強い。廃棄される襖や屏風があればまずはその内部を探ってみよう。お宝が隠されている可能性がある。
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可能な限り対応したいと思います。
裸になった襖は一般の参加者が持ち帰ったが、私はサビを育てるために縁を固定するために打たれていた和釘を数本いただいた。(さて、どうやって育てようか・・・)
河崎ふすま解体団による「ふすまの解体ショー」は10時に始まると予定通りに2時間で終了した。
午後からは、ここで見つかった古文書をもとにアドリブで河崎をめぐるミステリーまち歩きが実施された。
それまではしばしの休憩・・・・
第二部 「ミステリーまち歩き」 へと続く。